第14回 特別な教育的ニーズのある子どもへの教育支援
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1. 特殊教育から特別支援教育へ
1-1. 障がい観の変遷
障害観の変遷
障害を3つの分類から構造化してとらえる見方を提示
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批判
矢印の一方向性
障害のマイナス面が強調されすぎている
環境要因や社会的不利について十分考えられていない
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ICIDHの批判を受けて2001年に改訂版として採択
障害のあるひとだけではなくすべての人の生活機能をとらえる
本人・家族・専門職間の共通言語として相互理解と連携を促進することが期待されている
ICFの特徴
1. 「心身機能・構造」「活動」「参加」の3つのレベルから生活機能をとらえていること
特に「活動」に関しては「できる活動」(能力)と「している活動」(実行状況)に分けてとらえている
2. 障害のプラス面を重視していること
ICIDHは障害のマイナス面を強調していたの
3. 要素間の関係が双方向の矢印で表され、相互作用モデルとなっていること
4. 背景因子として「環境因子」と「個人因子」を導入したこと
教育において大切なことは、ひとりひとりの子どものニーズを把握し、適切な支援を提供すること
「ICFの考え方を踏まえ、自立と社会参加を目指した観点から、子どもの的確な実態把握、関係機関との効果的な連携、環境への配慮などを盛り込む」(中央教育審議会, 2008) 1-2. 特別支援教育への移行
「今後の特別支援教育のあり方について(最終報告)」(文部科学省, 2003)
2006年には学校教育法の一部が改正
従来の盲・聾・養護学校→障害の種別を超えた特別支援学校に一体化
地域の小中学校の特殊学級→特別支援学級
特別支援教育が2007年4月にスタート
1-3. 障害者差別解消法と学校教育
2016年4月施行
障害を理由とする差別的取扱い禁止
国公立学校などの公的機関には法的義務
私立学校などの民間業者には努力義務
社会的障壁の除去を志向するもの
2. 特別支援教育の概要
2-1. 特別支援教育の理念と基本的な考え方
特別支援教育
「障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、幼児児童生徒一人ひとりの教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うもの」(中央教育審議会, 2005)
それまで支援の対象とみなされいなかった発達障害のある子どもたちは、特別支援教育においては適切な指導と支援を提供すべき存在として認められるようになった
特別支援教育の理念と基本的な考え方
障害の有無に関わらず、人格と個性を尊重し支え合う共生社会の実現のため広く国民全体が共有すべきもの 学校教育は障害のある子供たちの自立と社会参加という長期的な見通しのもとに、適切な支援を提供することが求められる
2-2. 特別支援教育の対象
特別支援教育の対象
特殊教育の対象である特別支援学校
小学校・中学校に設置されている特別支援学級に在籍する児童生徒
通常の学級に在籍しつつ通級による指導を受ける児童生徒
発達障害のある児童生徒
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通級による指導
小学校・中学校の通常の学級に在籍する障害のある児童生徒が受ける教育
各教科等ほとんどの授業を通常の学級で行いつつ、障害に基づく種々の困難の改善・克服に必要な特別の指導を、特別の場において週に1~8時間行う教育
特別支援学校の対象となる児童生徒の障害の程度は、学校教育法施行令22条の3において規定されている
義務教育段階における特別支援教育の対象となる児童数は増加の一途
全児童生徒数は減少傾向にあるにもかかわらず
2-3. 個別の指導計画と個別の教育支援計画
個別の指導計画
一人一人の教育的ニーズに応じた指導を継続的、発展的に行うための教育計画(土肥, 2009) 学校教育目標や学年・学級の指導目標に基づき作成することが義務づけられている
個別の教育支援計画
教育機関在籍中のみならず, 生涯にわたる組織的・体系的かつ一貫した支援を目的として作成される
家庭・地域·医療・福祉・保健・労働等の業務を行う関係機関との連携を図り、長期的な視点で児童生徒への教育的支援の実現が目指されている
このような計画的支援は特別支援学校だけに求められているわけではない
小学校・中学校においても特別支援学級または通級による指導について同様の計画的支援が求められている
学校種間や学校から社会への移行期に起こりがちな支援の分断の未然防止が模索
3. 病弱教育:病弱児への教育支援
3-1. 病弱教育とは
医学的な定義のある術語ではなく、慢性的な疾病または特異体質のため体力が弱っている状態を表す一般的な意味
「病弱」
疾患が長期にわたっている者、または長期にわたる見込みがある者で、慢性の疾患を有し、継続的な医療または生活規制を必要とする者
「身体虚弱」
先天的または後天的な要因により、身体諸機能に異常があったり, 疾病に対する抵抗力が著しく低下していたり, 頭痛や腹痛などのいろいろな不定の症状を訴える者, あるいは疾病の徴候が起こりやすいがすぐ入院治療というわけではない者
小児がんのある児童生徒数の増加は, 罹患率の上昇というよりも、治癒率の上昇により教育の必要性が認識されたことに起因すると考えられる
3-2. 病弱教育の場
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学校組織
特別支援学校(病弱)
(他の障がい種との併置校を含む)
病弱特別支援学級
病院内に設置されている特別支援学校の分校や分教室, 地域の小,中学校
病弱・身体虚弱特別支援学級
地域の小・中学校内に設置
教育のハード面
都道府県立特別支援学校(病弱)は,病院とは独立した敷地・建物をもち,音楽室等の特別教室や体育館等,いわゆる学校としての設備を備えていることが多い
一方, 病院内に設置されている分校分教室・特別支援学級は, 病院の一角の1,2部屋を学級として使用させてもらい, 小学生と中学生もひとつの教室の中で机を並べるという形式をとらざるを得ないことも多く,必ずしも整備された環境とはいえない中で教育が行われていることもある
3-3. 病弱教育の意義
病弱教育の意義
学習の遅れの補完と学力補償以外にも次の4点が示されている(文部省, 1994)
1. 積極性·自主性・社会性の涵養
2. 心理的安定への寄与
3. 病気に対する自己管理能力の育成
4. 治療上の効果等
他にも
行動や食事など制限の多い生活から狭くなりがちな病弱児の視野を体験学習によって広めること
学校行事の存在が単調な入院生活のリズムをつくること
病弱児の保護者にとっての相談相手としての教師の存在
3-4. 病弱児の心理
病弱児は心理的問題をかかえやすいことが指摘されている 疾患の予後や治療に伴う容姿の変容
他の子ども達とは異なる生活面の制約や家族と離れての入院生活等に起因する不安を抱きながら生活している
病弱児のパーソナリティ特性
ネガティブな特性があげられることが多い
入退院の繰り返しや過去の入院経験・家庭療養等の結果としての学習の遅れによる焦りや劣等感を強くもっており、根深い不安や葛藤をかかえている
長期間の療養からくるいらだちから短気·衝動的であること, 過保護な家庭環境から依存性が高く, 消極的かつ無気力で根気がないこと等の
これらの特性は,薬や疾患の影響による神経系への影響に起因するとされることもあるが,むしろ疾患に伴う入院や治療という特殊な生活パターンや家庭環境等の二次的要因によって生じたものと考えられる
1. 将来への不安: 仕事や結婚など自分の将来や退院後の生活への不安
2. 孤独感: 本来の生活環境から切り離されて感じる孤独な気持ち 5. とり残される焦り: 勉強や友だちの話題についていけなくなるのではないかとの焦り 病弱児の心のありようは実際には個人差が大きく,安易な一般化はできないと思われる
厳しい治療を経験した子ども達ならではのポジティブな側面も指摘されている
健康と生命の大切さが分かる, 本当の友人とは何かが分かる・周囲への思いやり・自分のがんばりへの誇りをもっているなど
こうしたポジティブな側面に焦点をあて,大切にしていくことも支援の課題
3-5. 病弱児のニーズに応える教育支援の課題
「長期入院児童生徒に対する教育支援に関する実態調査」(文部科学省, 2014)
2013年度中に病気やけがによる入院により転学等をした児童生徒 延べ約5,000人
転学とはいえ, うち7割が前籍校に戻っており, 前籍校が退院後を見据えて病状等の実態把握や相談,自宅審養中の学習指導を行っていることも示されている
しかし, 病気やけがにより長期入院(年間延べ30課業日以上)した児童生徒の約半数には在籍校による学習指導が行われていないことが明らかになっている
在籍児童生徒が長期入院した小中学校は,全小中学校の1割弱にあたる約2,400校
1990年代以前に比すれば改善されたとはいえ, 教育機会の保障に関しても課題は多々残っている
病院内教育施設の設置とあわせ,
自宅療養中の子どもへの教師派遣等,
その他にも課題は山積している
特別支援教育全体の課題とも重なるところもあるが, 病弱教育において解決が望まれる課題としては以下のものがある
1. 学籍の移動
病弱教育機関において教育を受けるにあたっては, 原則として学籍の移動,すなわち正式な転校の手続きが必要
入院の短期化・頻回化という現状にそぐわないことも多い
手続きの煩雑さや, 地元の学校と縁が切れてしまうような気がするといった心理的な抵抗感から転校をためらうケースも多く、 結果として教育保障がなされないままになってしまうという事態も憂慮されている
2. 復学支援
約7割の児童生徒が前籍校へ復学するとはいえ, 長期にわたる不在後の復学は病弱児にとって体力的にも心理的にも負担の大きいもの
前籍校に戻る移行を円滑にするための復学時の取り組みが求められている
関係者が一堂に会する支援会議の開催
前籍校の学習の進み具合に間に合うよう学習を進めておく
クラスメートとの接点をもつよう試みる等
3. ICT活用
病弱教育においては独自の意義を有する
入院中の子ども達は, 生活の場である地域や家庭から物理的にも関係的にも切り離されてしまう
ロボットやインターネットを通した通信を利用することにより、前籍校の教室と院内学級をつないだり, また無菌室と院内学級をつないだりすることで, 子ども達の孤立感をやわらげる, 或いはスムーズな復学につながることが期待される
子ども達の経験不足を補うために,タブレッ ト型端末を活用して, 病院外の情報に接したり,間接体験や疑似体験を授業に取り入れたりする指導方法の工夫が行われている
4. 医療・福祉等多方面との連携の必要性
病弱教育においては, 医療·家庭·地域の学校との連携の必要性はかねてより強く認識されている
病弱教育担当教師の教育実践そのものが, 病弱児を囲む援助資源のあいだをつなぎ, サポートネットワーク構築に大きく貢献していることも指摘されるが(谷口, 2009),
よりよい教育的支援実現のために,よりシステマティックな連携のしかたを探らなければならない
さらに, 入院の短期化に伴い連携のスピードアップと強化が求められている
5. キャリア教育
教育が子ども達の自立と社会参加を目指して展開することは病弱教育も同じ
しかし, 病弱教育は通常の小中学校のように6年間もしくは3年間の教育期間が設定されているわけではなく, 多くの場合一時的
入院期間の短期化も進む中で、キャリア教育をどのように展開するかは、病弱教育のかかえる実践上の課題の一つ
4. インクルーシブ教育システムの構築に向けて
「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」
共生社会実現のために特別支援教育が果たす役割の大きさを確認
人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みのこと
障害者権利条約
障害のある者が教育制度一般から排除されないこと
自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること
個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされること
個別性の高い特別な教育的ニーズのある子どもたちの自立と社会参加という長期的な展望のもとに、各教育段階においてニーズに応える指導を展開できる、多様な学びの場を準備することも必要となる
教師の専門性の向上が喫緊の課題